着物の虫干しの正しい方法|やるべき時期と楽に行う秘訣を伝授
着物を自宅でお手入れする際、必ずと言って良いほど必要とされるのが「虫干し」です。
虫干しの正しい方法や必要性、行いたい時期など着物の管理についてお伝えします。
虫干しをしないと着物に起こるトラブル
カビ
現代では着物をそれほど頻繁に着用する人は少なく、一度タンスにしまったらそのままという方も多いものです。
日本は世界の中でも高温多湿の気候であり、着物を保管しているタンスの中にも湿気が溜まりやすくなっています。
湿度の高い場所ではカビが発生しやすく、カビにとって少しの栄養さえあれば、あっという間に繁殖して着物にダメージを与えてしまいます。
また、マンションを中心に最近の住宅は気密性の高い構造になっているため、昔の木造住宅に比べて湿気がこもりやすくなっているため、より着物にカビが付着しやすいのです。
虫食い
多くの着物は「正絹(しょうけん)」という素材でできていますが、正絹はその名の通り絹(シルク)でできています。
絹は非常に柔らかく、また蚕から生まれた動物性たんぱく質ですので、衣類に付着する害虫が食べることにより、虫食い穴が起こる可能性があります。
昔は、「絹(着物)には虫がつかない」と言われていましたが、衣類の害虫として有名なヒメカツオブシムシやヒメマルカツオブシムシは、幼虫の時に絹も食べることが分かっています。
害虫は外から侵入してきますが、屋外のいたるところに存在しているため、開けている窓や換気扇、給気口、外干しをした洗濯物、人の出入り、ペットの散歩などあらゆる機会に自宅へ侵入する恐れがあります。
変色
着物を長くしまっている方から「知らぬ間に生地が変色していた」「シミのようなものがついている」という声が聞かれます。
着用後に洗っていない場合は皮脂である可能性もありますが、直接肌に触れない部分にシミが付いている場合はカビによる変色の可能性があります。
黄色や茶色の斑点がところどころに発生している着物は、目に見えなかったカビの菌が保管の間に増殖し、生地が黄色く変色してしまった恐れがあります。
カビによる着物の変色は、生地そのものに大きなダメージを与えてしまうため、程度によっては丸洗いやシミ抜きをしても元に戻せないこともあります。
虫干しはなぜ必要?いつ行えば良いの?
着物の虫干しを行う効果
上記の様な着物のトラブルを防ぎ、長く綺麗に保管するためには、定期的に自宅で虫干しを行うことが非常に大切です。
着物の虫干しでは、タンスやたとう紙から着物を出して外気に当てることで湿気を飛ばし、カビの繁殖を防ぎます。
また、一度外に出して干すことで、着物に付着してしまった害虫を取り除くことも可能です。
全体を確認すれば、万が一着物に損傷があっても早めに対処できますから、点検の意味でも虫干しはしっかりと行いましょう。
虫干しに適した時期はいつ?
一般的に虫干しは、年に3回(8月、11月、2月)のペースで行うのが良いとされています。
8月の虫干しは「土用干し」とも呼ばれ、梅雨明けのシーズンにタンス内に溜まった湿気をしっかりと取り除くことができる、最も重要な時期と言えます。
夏は1年の中でも湿度が高い時期なので、雨や台風などの前後は避けて日を選ぶことが大切です。
土用干しが終わった後は、11月に虫干しを行います。
空気が乾燥し始めるため、8~10月に溜まった湿気を取り除く機会として最適です。
また、気温もそれほど寒くなってきていないので虫干しも行いやすく、また夏物と冬物の衣替えをするご家庭ではついでに行えます。
最後は2月の「寒干し」と呼ばれる虫干しで、1年の中で最も湿度の低い季節に着物を外気にあてることで、春・夏の湿気に耐えられる様にします。
それほど着物に手が掛けられないというご家庭でも、8月の土用干しと2月の寒干しの2回は時間を作り、行っておくと安心です。
虫干しはどのくらい時間をかけて行うもの?
着物の虫干しは、布団干しに適した時間と同じく、10時~14、15時ごろまで干しておくのが良いとされています。
日中は太陽も差し込んでいるため、湿度も低く、気温も高い状態になり、着物のお手入れには最適な時間です。
ただし、雨や台風など降水予報の前後は空気中の湿度が高まるため、その日が晴れていたとしても、虫干しには不向きです。
前後2日ほど晴れ予報が続いている日を選び、虫干しをするようにしましょう。
また、何日も着物を干したままにしてしまうと、今度はホコリで汚れてしまったり、紫外線で着物が退色(色褪せ)してしまう恐れがあります。
必ず14~15時ごろから取り込みはじめて、その日のうちに着物をしまうようにしてください。
自宅で虫干しする時の正しいやり方
一般的な虫干しの方法
着物を1枚ずつ裏返し、きものハンガーにかけて日光が直接当たらない部屋や場所で、陰干しをします。
着物を吊るす時は裾が床につかないようにしますが、敷き紙(着物の手入れや着付けをする際、使用する敷物)を広げて、万が一着物が落下してしまっても汚れない様にしておきましょう。
室内で虫干しを行う場合は、窓やドアを開けたり、扇風機を回して風通しを良くしてください。
また、たとう紙は湿気を溜め込みやすいため、着物と同じ部屋で干しておくと良いでしょう。
10時から14時または15時ごろまで干しっぱなしにしますが、この間に収納タンスのお手入れを行っておきましょう。
収納タンスやケースは、掃除機をかけた後に乾拭きをし、しばらく開けたままで風を通して湿気を飛ばしましょう。
虫干しの終了時間になったら、干している間に付着したチリ・ホコリを取り除くため、着物専用のブラシを使ってブラッシングをしましょう。
専用ブラシがない場合は、ハンカチなどの柔らかい布や、新品のハンディワイパーなどを使って拭ったり、軽く叩くだけでも構いません。
洋服用のブラシは毛先が固い事が多く、着物のような絹製品には向かないため、できるだけ使用しない方が良いでしょう。
ブラッシングを全体に行ったら、しまう前に着物全体に目を通し、カビや汚れ、虫食い穴などがないか確認してください。
万が一、カビが付着している場合、そのまま収納するとカビの胞子が広がって、一緒にしまっている着物にも悪影響を及ぼします。
また、目で見て気になる汚れは、長く放置することで落としにくくなり、取り除けなくなってしまうリスクもあるので、専門的な染み抜きが必要です。
確認が終わったら、着物を畳んでたとう紙にしまい、収納へ戻せば虫干しは完了です。
着物の収納場所に、除湿剤や防湿剤、和服用の防虫剤などを入れておけば、次の虫干しまで安心してしまっておけます。
着物の虫干しは一気にやらないとダメ?
着物の量が多く、いくつもの収納に分けられて保管していると、一度に虫干しをまとめて行うのは相当大変です。
この場合、1日で全てまとめて虫干しを行うのではなく、別日分けて行うのが良いでしょう。
ただし、同じ収納に入っている着物を複数回に分けてしまうと、虫干しをしなかった着物についている湿気や虫が移ってしまう恐れがあるため、せっかく虫干しをしたのに良い環境で保存することができません。
虫干しを何日かに分けて行う時は、同じ収納に入っている着物は同じ日にまとめて行う様にしましょう。
もし、1つの収納タンスに入っている着物の量が多い場合は、全ての虫干しはできなくても、せめてその間引き出しを開けておき、湿気を飛ばす様にしてください。